蟻酸

例えば今僕のマイハート、不安を中心とした諸々の負の感情がさながら満月の夜の海のように、押し寄せて潰されて何か嫌な色をした汁が溢れだしてくる。その汁に蟻がたかる様を見て「気持ち悪い」と言い放つ、なるほどたしかに気持ち悪い。蟻は緑色と呼ぶには少し失礼な感じの妙に形式張った色をしていて、うやうやしく礼をするとまた汁を吸い始める。慇懃無礼とはまさにこのことである。私は仄かな怒りをあらわにして蟻を一匹踏み潰すことにして踏み潰す。蟻酸と吸われていた汁が混ざりあい、緑色と呼ぶには少し失礼な感じの妙に形式張った色のぐしゃぐしゃになったものに彩りを添えて食欲をそそる。周囲で同じように汁を吸っていた蟻たちは驚いたように引き下がり一瞬動きを止めるがそれでも食欲が打ち勝ったらしく、再度汁へ汁へと群がっていく。それを見ていたらなんだか無性に悲しくなってきたのか、僕は大粒の涙を宙に浮かべて君の胸元へ飛び込み、繰り返し、繰り返し、ハロー。呼び掛けも虚しくただただ言葉は空を切ってどこか心ここにあらずといった様子。宿る
と言っただろう。あれほど宿ると言っただろう。君は撫でるような声でそこから生み出し続ける。ただただ、僕にはわからないのは僕なりのメソッドならではの理由があったのだということで納得させられざるを得なかったということに昇華される。