これが東京近在の若者の癖であるから。

もし君、何かの必要で道を尋ねたく思わば、畑の真中にいる農夫にききたまえ。農夫が四十以上の人であったら、大声をあげて尋ねてみたまえ、驚いてこちらを向き、大声で教えてくれるだろう。もし少女(おとめ)であったら近づいて小声でききたまえ。もし若者であったら、帽を取って慇懃に問いたまえ。鷹揚に教えてくれるだろう。怒ってはならない、これが東京近在の若者の癖であるから。

国木田独歩 武蔵野」